#780 胸から、音楽が聞こえる。
あなたの胸からの音楽が、好き。
あなたと、レストラン。
ロマンチックなムード。
ふわふわした気分だった。
アルコールは、一滴も飲んでいないのに。
踊りたい気分。
ステップは、わからないけど。
ここに、音楽があれば。
BGMは、流れていなかった。
静かなお店だった。
あなたが選ぶお店は、静かなお店。
かといって、ゲストがいないわけではない。
それぞれのテーブルに、カップルが居るのに、それでも静か。
おしゃれなゲストが多い。
大声ではしゃぐ観光客は、いない。
そういうお店を選ぶ。
おしゃれなお店は、BGMが流れていない。
ゲストの囁きが、BGM。
ドルチェを食べ終わり、コーヒーを飲み終えた。
もう少し、この空気を味わっていたい。
あなたが、立ち上がった。
あなたが、私の前に両手を広げた。
条件反射で、あなたの両手に、私の両手を重ねた。
ふわりと、体が浮き上がった。
次の瞬間。
私の体は、90度、回転した。
感覚的には、4回転半、回転した。
私は、あなたに後ろから、抱きしめられていた。
私の背中から、あなたの熱い胸の温かみを、感じた。
あなたが、ゆりかごのように、スイングした。
ブランコで、押してもらった昔を思い出した。
右へ、左へ。
私は、背中越しに、あなたの胸に、委ねた。
音楽が、流れてきた。
どこから。
耳からではなかった。
あなたの胸からだった。
「白雪姫」の『いつか王子様が』だった。