#786 どんなに遠くまで、行っても。
あなたの受け答えが好き。
あなたと、郷土玩具展を見ていると、なかなか終わらない。
ひとつひとつ、タイムスリップしてしまう。
「張子の虎」があった。
2つ並んでいる。
大きい。
小さい子どもは、乗って壊してしまいまそう。
「乗っても、壊れないんですよ」
触っているお客さんの説明を終えた学芸員さんが、また戻ってきてくれた。
「80キロの大人が、乗って飛び跳ねても大丈夫です」
紙でできているのに、凄い。
男の子のおもちゃ。
きっと、乗って壊れたことがあったにちがいない。
その時、「乗ってはいけない」ではなく、「乗っても大丈夫」にした。
職人さんの愛を感じた。
「ご主人が型を、奥さんが絵付けをされてます」
夫婦の共同作業。
そこにも、愛を感じた。
憧れた。
「絵付けは、目を最初に、描かれるそうです」
目は、最後だと思っていた。
目を入れると、魂が入る。
そういえば。
あなたが描く女性画も、目から描いている。
あなたが、名刺を出した。
学芸員さんが、名刺を取りに行って、戻ってきた。
あなたの名刺を見て、学芸員さんが言った。
「あっ」
あなたの名前に気づいたのか。
「作家さんなんですね」
あなたに気づいたわけではなかった。
「どういう造形をされてるんですか」
本の作家ではなく、造形作家と思われた。
「染物屋の息子です」
あなたは、笑いながら答えた。
「虎は、どんなに遠くまで行っても、必ずねぐらに戻るそうです」
あなたは、言った。
私は、2体の虎が、寄り添う夫婦に見えた。