#789 あなたの気配に、包まれて。
あなたの気配が好き。
あなたと、展覧会に行った。
真っ暗な展覧会だった。
まるで、ブラックホールに吸い込まれるような暗さだった。
一歩進むごとに、つま先で、地面を確認した。
建物の中のはず。
壁すら見えない。
前に、落とし穴があっても、はまってしまう。
前後左右どころか、上下の感覚まで、消えてしまう。
明るいところから、暗いところに入ったので、目の調節ができていないのか。
もう少し待つと、見えるようになるのか。
まわりに、人がいるのか。
作品の存在すらわからない。
この闇が、作品かな。
闇を体験するといういう体験型の作品かな。
都会では、こんな闇をしばらく体験していなかった。
子どもの頃は、もっと暗いところがあったはず。
そこは、怖かった。
家の中にも、あった。
おばあちゃんの家にも、あった。
昔の事を思い出させる体験が作品かな。
「こちらにも、どうぞ」
女性の声がした。
この人は、ずっとこの中に、いるのかしら。
真っ暗な中で、「この中」って、一体なにか。
不思議なことに、闇の中に、部屋があることも、感じた。
闇の中の、部屋というか、箱の中に、入った。
こんな闇の中なのに、不思議な安心感がある。
どうしてだろう。
あなたは。
真っ暗な中に、あなたがそばにいることは、わかる。
あなたの気配。
私にとっての、最高の芸術作品。
それは、あなたの気配だった。