#800 直感で、引き返して。
あなたの引き返す直感が好き。
あなたと、お花見。
長い行列を経て、ようやく中へ入る。
いつものように、広い境内を、あなたは感覚で歩く。
御室桜の花道は、またもや行列。
各自、写真を撮ったり、自撮りしたりしているので、なかなか進まない。
みんなが撮っている時は、あなたは、写真を撮らない。
混雑にも、イライラしない。
涼しい顔をしている。
淡々と、涼しい顔をしている。
低い桜が、両頬を撫でる。
しかも、桜のトンネルの道幅も、狭い。
思い出し笑いしてしまった。
ガソリンステーションを思い出した。
洗車機。
桜の洗車機で、両頬を撫でられている気がした。
一人で、吹き出してしまった。
こんなに人が当たっていても、桜は、文句一つ言わない。
サービス精神旺盛なコツメカワウソが、大勢の見物客に、握手会をしてくれているみたい。
桜も、さぞお疲れに違いない。
宝物館では、あなたが紹介をしてくれる。
解説ではなく、紹介。
あなたの紹介で、私だけでなく、宝物も喜んでいる。
門を出る頃には、さすがに、行列は短くなっている。
三門脇の境内地図を見る。
見なかった建物がある。
あなたは、直感で、さっと、引き返す。
こんな時の行動に、迷いはない。
再入場。
なんせ、一日パスポート。
残っていた桜のトンネルを抜けると、バイオリンの幻聴が聴こえてきた。
幻聴ではなかった。
白の袈裟を着たお坊さんが、国宝金堂の軒で、バイオリンを奏でていた。
音大出身のお坊さん。
さっき、引き返していなければ、出会えなかった。
あなたは、直感で、バイオリンを感じていた。