#803 あなたの、青い空に。
あなたの「青い空」が好き。
あなたと、美術館。
展示の終わりのところで、来館者が、絵を描いているコーナーがあった。
この日の企画展のテーマは、「青い空」。
来館者も、自分の「青い空」を描けるようになっていた。
一人ひとりが、思い思いに描いた「青い空」が、展示されていた。
自分だったら、どんな「青い空」を描くだろう。
私は、すでに思い浮かべていた。
「2枚、ください」
あなたが、係の人に、もう頼んでくれた。
色とりどりの、サインペンが用意されていた。
いざ、描こうと思うと、なかなか難しいことがわかった。
空だけ描いても、わからない。
ただ、ブルーに塗るだけでは、空なのか、海なのか、分からない。
雲を描くと、青空感は出るか。
青空は、雲ひとつない、晴天とも限らない。
私は、雲を描いた。
空の下に、水平線を描いた。
水辺線に、ヨットを浮かべた。
空には、カモメも、飛ばせた。
うん。
なかなか、いい。
自分でも、自信作。
あなたを、見た。
負けた。
あなたも、雲と水平線とヨットを描いていた。
ただ、圧倒的に違っていた。
あなたの絵には、海を眺めるカップルの背中が描かれていた。
男性は、肩と腕だけが描かれている。
女性は、男性の肩に幸せそうに、もたれかかっている。
リボン付きのパナマをかぶっているから、夏の海。
ヨットは、2艘で、あたかも寄り添っている。
雲も2つで、寄り添っている。
カモメが2羽、雲の中に、飛んでいて、雲の目になっている。
描かれていない2人の幸せな笑顔になっている。
淡い墨一色の線。
あなたの絵には、人がいる。
あなたの絵には、物語がある。
あなたの絵には、愛がある。