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#804 お茶を飲みに、老舗に。

あなたの日本語訳が好き。
あなたと、銀座。
銀座の紳士服店。
ドアから、老舗であることがわかる。
あなたと一緒でないと、入れない。
入ると、お寿司屋さんのようなカウンター。
人の姿はない。
「こんにちは」
あなたは、明るい声で、挨拶をする。
あなたの挨拶は、まるで空間にしている。
返事はない。
返事はなくても、あなたは動揺しない。
やがて。
螺旋階段から、スタッフの女性が下りてくる。
「こんにちは」
あなたは、スタッフ以上の明るい声で、挨拶する。
大きすぎず、届き、明るくする声で。
「主は、ちょっと、出かけておりまして。すぐ、連絡します」
そんな時、あなたは。
「近くですか」「どれくらいで、戻られますか」も言わない。
「お手数です」
と、微笑みを返す。
ソファーが、2つ。
「こちらに、おかけください」
お茶が、出される。
そして、女性スタッフは、奥に来ていく。
静かな時間。
外を、銀座を行き交う人が歩くのが、細長いイギリス窓から、見える。
不在の主を、お茶をいただきながら、待つ。
銀座の老舗に、ぶらりと来て、お茶をいただく。
それが、銀座の老舗の味わい方。
あなたは、ソファーの後ろにある本を眺めている。
一冊を取り出す。
「Dress to Kill」とタイトルが書かれている。
ポストイットが、挟まれている。
そのページには、ショーンコネリーの007。
タキシード姿。
あなたが、ご主人と、秘密のやり取りをしているよう。
殺すためのドレス。
私がつぶやいた。
「悩殺」
あなたが、囁いた。
そう訳すのね。
主が来るまでの贅沢な時間を味わった。
悩殺されながら。



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