#807 断崖絶壁を、バックで。
あなたとの謎の旅行が好き。
あなたと、温泉。
知り合いから招待状が届いたとのこと。
ちょっと、辺鄙なところにある。
初めて聞く温泉地。
温泉地の名前は、読みにくいくらいがいい。
新幹線の駅から、在来線に乗り換える。
初めて乗る路線。
駅名が、ひとつひとつ、初めて。
どこか、外国に来たような気分。
あなたと一緒だと、何でも楽しい。
あなたと会っていなかったら、一生、この電車にも、乗っていなかっただろう。
まるで、幻想小説に出てくるような世界。
温泉名と同じ、駅名。
無人駅。
電車が出ていく。
もし、間違っていたら、次の電車があるかどうかわからない。
あなたは、淡々。
駅前に、迎えのバンが来ていた。
女性のドライバーさん。
旅館名は、なんだっけ。
旅館名は、K温泉。
温泉地名と、駅名と、旅館の名前が、同じ。
秘湯感が、出てきた。
他の旅館は、ないのかもしれない。
あなたと一緒でなかったら、不安になるところだった。
あなたと一緒だと、不安が、ドキドキ、ワクワクになる。
このまま、帰れなくなっても、楽しい。
車は、かなり山道を、走る。
山道というより、斜面。
片側は、かなり急な崖。
車が、やっとギリギリ1台、通れる道。
ちょっとずれると、谷底に落ちていく。
そんな道で。
まさかの、対向車。
女性ドライバーは、バックする。
あなたと一緒だと、すべてがジェットコースター。
足の裏が、スースーする。