#808 全てが、幻想小説のように。
あなたの幻想小説感が好き。
断崖絶壁を、バックで通り越した後、いくらか幅のある道で、止まった。
この幅で、すれ違いできるのかしら。
私達の車は、谷側。
少しでも当たると、こするというより、谷底に落ちてしまう。
対向車のドライバーも、女性だった。
結構、思い切って、アクセルを踏む。
秘湯にたどり着くまでに、すでにアドベンチャーになっている。
無事、すれ違った。
こんな山の中に、本当にあるのかと思えるような、山の中に入った。
硫黄の香りが、した。
「ようこそ、いらっしゃいました」
女性ドライバーさんが、言った。
見ると、一見の旅館の前。
看板に、K旅館と書かれている。
女将さんと思しき女性が、お迎えしてくれた。
「お待ちしていました」
あなたは淡々としてるけど、初めてに違いない。
あなたの淡々には、騙されない。
女将さんが、部屋まで案内してくれる。
女将さんは、こんなひなびた所には、違和感があるくらいの色気がある。
窓が、両サイドにある角部屋。
見晴らしがいい。
窓の外に、川が流れている。
川原に、露天風呂が見えた。
「温泉しか、ありませんので、どうぞ」
早速、温泉に促された。
曲がりくねった階段を降りて、温泉に行くと、露天風呂は一つ。
男湯と女湯が、分かれていない。
「今日は、他のお客様は、いらっしゃいませんので、ご一緒にどうぞ」
たしかに、他のお客様は、見当たらなかった。
スタッフの人たちが、愛想よく、挨拶をしてくれる。
不思議なことに気づいた。
こんな山奥なのに、スタッフがみんな、若い。
若いのに、遊びのない山奥で、楽しみはどうしているのだろう。
しかも。
駅からずっと、男性に会っていない。
あなたといると、すべてが幻想小説のように見えてくる。
これからの展開が、楽しくなった。