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#813 尾行を、まくように。

あなたの私立探偵っぷりが、好き。
あなたと、銀座。
今日は、どこに行くか、楽しみ。
銀座のお店は、路面店を、歩きながら眺めるだけで、楽しい。
大通りから、一本中に入った。
ふと、あなたの気配が、消えた。
振り返ると、あなたが、いない。
キョロキョロすると、あなたが、細い道から、微笑みながら、顔を出した。
迷子の子どもが、お母さんを見つけたように、嬉しかった。
あなたの、こういうイタズラが好き。
あなたは、顔を出したところに、入っていった。
間口が、狭いお店だった。
お店というより、通路だった。
しかも、その狭い通路が、左側が地下に続く階段。
右は、奥へと伸びる裏道のような通路。
通路の奥に、かろうじて、灯りが見えた。
あなたは、ずんずん、入っていく。
ここ、入っていいの、と思うような通路だった。
映画に出てくる異界の道だった。
人が、一人分しか通れない。
私は、あなたを追いかけた。
今、私、きっとニコニコしている。
奥には、画材店があった。
テレピン油の臭いがした。
パリの画材屋さんにいる気分がした。
時代は、1920年代。
モジリアニが、カフェで似顔絵を描いて、飲み代にしていた時代。
あなたが、もう何かをレジに持っていった。
お店を出て、また、角を曲がって、あなたは歩いていった。
まるで、尾行をまくように。
そして、また、一軒のビルに、尾行をまきながら、入っていった。
上り階段が、あった。
狭い。
一人が、やっと通れる。
そのビルに、エレベーターはない。
私立探偵が入るようなビルだった。
私は、あなたについていく。
2階に上がると、そのまま真っすぐ、3階に上がる階段が、続いていた。
尾行をまくデートは、楽しい。
あなたは、探偵。
私は、探偵に依頼した謎の美女を演じよう。



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