#814 秘密基地に、潜入させて。
あなたの秘密基地が、好き。
あなたと尾行をまきながら、謎のビルの狭い階段を登る。
ドキドキしてきた。
階段を登って入るからだけではない。
期待感で、ドキドキしている。
このまま、どこに行くのか。
お店らしき気配がない。
裏階段のように、ドアがなく、階段だけが、上へ上へと、続いている。
今、だいたい、何階にいるのかも、分からない。
あなたと一緒でなかったら、きっと、とっくに引き返している。
あなたと一緒だから、行ける。
階段の曲がり角で、「あと23段」という表示が出た。
どこまで、23段。
上の方から、音楽が、聴こえていた。
先は見えないけど、音楽だけが救い。
「こんにちは」
あなたの声が、聴こえた。
「こんにちは」
あなたを迎えるさわやかな声が、聴こえた。
登り切ると、屋上テラスが広がった。
緑に囲まれている。
狭い空間を抜けてきたので、一気に、解放された気分。
テラスの奥に、室内があった。
その奥に、バーカウンターが見えた。
振り返ると、さらに上に登る階段。
「お先に、どうぞ」
微笑みで、案内してくれた。
急な階段だった。
ハイヒールで登るの?
と思いながら、登りたいという気分になった。
登った。
急な階段ではなかった。
もはや、ハシゴだった。
ハシゴの上には、天空の茶室があった。
藤棚には、本物のぶどうが、なっていた。
見上げると、雲が、ゆっくり流れていた。
いよいよ、秘密基地に、連れてきてもらった。