#816 雷雨に、テラスで。
あなたの予感が好き。
あなたと、カフェ。
「テレス席も、ありますが」
さっき、天気予報で、「雷雨」と言っていた。
今は、気持ちのいい青空。
あなたは、どうするか。
あなたは、迷わない。
「テラス席が、いいね」
あなただって、天気予報は、見ている。
今、こんなに気持ちがいい青空なのに。
雷雨を恐れて、建物の中に、逃げるのはつまらない。
安全安心を求めていては、コーヒーは飲めない。
それが、気持ちいい。
雲が、ゆっくり流れていく。
これは、写真にも、動画にも、撮ることができない。
「来ましたね」
カフェの店長が、言った。
手のひらに、ぷつっ。
店長さんは、するすると、雨よけのテントを出してくれた。
次の瞬間、ぴかっ。
しばらくして、どどん。
それから、テントに、大きな豆が落ちてくるようなパーカッションになった。
パタパタパタ。
突然、東京のど真ん中で、南国のスコール気分を味わった。
これは、室内では、味わえない。
こんなことも、あなたの演出に、思えてくる。
楽しい。
あなたは、天気予報で雷雨を見て、テラスのあるこのお店を選んだに違いない。
テントの下は、独特の空気感になった。
気圧が、いつも違う感覚。
日常では味わえない感覚。
何とも言えない、爽やかな風。
やがて、パーカッションは、クライマックスを迎えたかと思うと、パタリと止んだ。
自然のオーケストラの演奏を、聴いているみたいだった。
「コーヒー、おかわり、お持ちしました」
テントの下に、小さな虹が出た。