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#825 みんなが、見ている前でも。

あなたのテーブルの選び方が好き。
あなたと、レストラン。
40階。
日がまだ長いので、明るい。
お城の天守閣が、こんなに下まで見える。
石垣の角ごとにある櫓まで、見える。
いつもは、木に隠れて見えない。
その先に、工場の煙突が見えて、その向こうに、山並みが続いている。
駅から5分、北に歩いただけで、こんなに景色が違う。
窓際に、カップルが、座っている。
あなたは、あえて窓から最も離れたテーブルに座った。
窓際のカップルの緊張度が、伝わってくるのも楽しい。
コース料理が、一皿運ばれてくる度に、窓の外の景色が、移ろっていく。
同じ街なのに、明るさで、まったく違う色になる。
そういえば、さっきまで、雨が、ざあざあ降っていた。
雨上がりのおかげで、ますます、景色の解像度が上がる。
街に、明かりが一つついた。
蛍のように、ポツポツ、ついていった。
科学技術館で一緒に見た、街のジオラマみたいだった。
窓際のカップルが、シルエットになっていった。
次に見た時。
窓の外は、プラネタリウムになった。
カップルが、完全にシルエットになった。
窓ガラスに、レストランが反射しない。
レストランの照明をこんなに落としているのは、より夜景を楽しむため。
ここまで、暗いレストランは、初めて。
キャンドルのライトしか、見えない。
すべてのテーブルが、窓向きに椅子を並べている。
カップルへの配慮。
できるかも。
そう、私が想った瞬間。
あなたが、そっとキスしてくれた。
なぜ、窓向きに座ったか、わかった。
一番、後ろのテーブルで、キスできるように。
帰りに、次回の予約をしてくれた。
今度は、窓際。
次回は、みんなが見ている前で、してもらえる。



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