#826 あなたに、塗られたい。
あなたのバターの塗り方が好き。
あなたと、フレンチ・レストラン。
お皿に、バゲットが、サービスされた。
おいしそう。
おいしいに、決まっている。
見ただけでわかる。
食べすぎないように、我慢しないと。
フレンチ・レストランのバゲットが、好き。
バターが、置かれた。
バターは、一つずつ、パックに入っているタイプだった。
それも、ひとつのシェフのこだわり。
バターを手にとって、シールを見た。
見たことがない模様。
フランス製だった。
すると。
私の隣に座っているあなたの、優しい手のひらが、差し出された。
あっ。
私は、あなたの手のひらの上に、バターを置いた。
あなたは、優しくバターを受け取って、シールを剥がしてくれた。
そして、私の手のひらに、戻してくれた。
まるで、バターが、あなたの手のひらに、エスコートされたみたいだった。
サラダを食べた後、パンを食べる時間に。
あなたが、パンをナイフでカットした。
フィルムノワールで、ジャン・ギャバンがナイフで、バゲットを切るシーンを思い浮かべた。
あなたが、バターを塗った。
見とれた。
バターを塗っているというより、画家が、パレットナイフで絵を描いているみたいだった。
すぐに、クールベが浮かんだ。
女性を放っておかないところが、あなたのイメージ。
あなたは、バターナイフを、ナイフと同じように使っている。
私は、ずっと、バターを、スプーンのように使っていた。
使っている面が違った。
私は、バゲットになった。
そして、あなたにバターを、塗ってもらった。