#828 眠りながら、物語を紡ぎ始める。
あなたの風邪が好き。
私の夏風邪が、あなたにうつった。
こんな時も。
あなたは、優しい。
私が、うつしてしまったのに。
淡々と、している。
忙しいのに、寝込ませて、しまった。
うつされた、とは言わない。
「一緒になっておいたほうが、ちょうどいいね」
熱の顔で、笑っている。
仕事は、大丈夫かしら。
心配。
「ちょうど、ギリギリ、セーフ」
あなたのセーフは、ギリギリ。
熱っぽい顔のあなたも、好き。
ますます、少年の顔になる。
髪の毛が、熱で、ちょっとパーマになっている。
前髪が、目の辺りまで降りている。
少女漫画に、出てくるような少年っぽい。
子どもの頃、風邪をひいた時、住み込みのお姉さんたちに、介抱してもらったにちがいない。
あなたの風邪は、どこか幸せに満ちている。
風邪をひくという人間っぽさも、ますます、愛おしくなる。
あなたも、風邪をひく。
あなたは、風邪をひきながら。
風邪をひく人の気分を味わっている。
風邪をひくって、こんな感じなんだね。
汗をかくって、こんな感じなんだね。
だから、風邪をひいた人の気持が、わかるようになる。
昔のあなたの本に書いてあった言葉。
<風邪をひいた時、神様の気持ちに近づく。>
風邪をひいているあなたは、天使になっている。
天使が、寝ながら、笑っている。
天使は、眠りながら、頭の中で、物語を紡ぎ始めている。