#829 もう1枚、ある。
あなたのマジックが好き。
あなたと、美術館に行った。
あなたは、ミュージアムショップに一緒に、寄ってくれる。
ミュージアムショップは、女性ばかり。
またしても、あなたは、女湯の中に、一人。
「好きなのを選んで」
作品のポストカードを、あなたは選ばせてくれる。
突然、真剣になる。
さっきまで真剣に見ていたつもりなのに、買ってもらえるとなると、真剣さが違う。
あなたは、ポストカードを選ぶことで、絵の見方を教えてくれている。
回転式のシェルフを、回す。
迷う。
キープした1枚を持って、他にないか、探す。
やっぱり、最初に手に持った1枚。
決心して、渡す。
はい。
お会計をして、袋に入れた状態で、あなたはくれた。
たった1枚のポストカードが、なんか、嬉しいのは、どうしてだろう。
あなたは、女の子の、小さな嬉しさを知っている。
中から、出す。
見た時も好きだったけど、今手にしている1枚のポストカードは、それよりも好き。
同じ絵なのに。
選んだから。
あなたに、買ってもらったから。
あら?
袋の中に、なにか入っている。
中から、もう一枚の、ポストカードが。
いつ。
あなたは、私が選んでいる間に、さっと選んだ。
あなたは、選ぶのが、早い。
全部見てから、選ばない。
目に入ったものを、選ぶ。
あなたが、私に選んでくれたカード。
しかも、私が選んだカードと、かぶっていない。
裏を返すと、あなたからのメッセージが、書かれていた。
いつ書いたのかしら。
そんなことは、マジシャンのあなたにとっては、朝飯前。
展覧会より、あなたのマジックに、うっとりしてしまった。