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#837 名前を、見ないで。

あなたの香りの味わい方が好き。
あなたと、香りのお店に入った。
実際に、23種類の香りが、テイスティングできる。
こういう時。
全部、試してみたくなる。
あなたは、全部試させて、くれる。
さっきまで、雨が降っていた。
雨上がりで、ますます香りが、際立つ。
楕円形の、テイスティング・ボトルが並んでいる。
端から順番に、香りを味わう。
香りには、イメージが膨らむ名前がついている。
<月下香><雨音(あまね)><竹林><苔寺><潮>
想像通りの香りもある。
想像と違う香りもある。
懐かしい香りもある。
子どもの頃の、匂いつき消しゴムの香りも、思い出した。
香りは、思い出と結びついている。
一つ選ぶとするならば。
これか、あれか、で迷う。
あなたは、どれを選ぶだろう。
「どれが、好き?」
私は、好きな香りの名前を言った。
「どれ?」
私は、指さした。
あなたは?
「僕は、これ」
それは、あなたが最初に、かいだ香り。
名前は、何?
「名前?」
これが、あなた。
あなたは、名前を見ないで、かいでいた。
私は、名前を見て、かいでいた。
名前を見た時点で、もう先入観が生まれるので、香りを純粋にかぐことはできない。
頭でっかちの自分が、ちょっと恥ずかしくなった。
さすがのあなたのかぎ方に、惚れ直した。
私は、あなたの香りが、好き。



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