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#849 メニューのないお店で。

あなたとの深夜中華が好き。
あなたと、京都。
夜、遅くなった。
晩ごはんを食べそこねていた。
こんな時間に、開いているお店があるのか心配。
あなたは、迷わず歩いていった。
あなたが、明かりがついている一軒の扉を開いた。
あらっ。
入ったのは、中華料理のお店。
しかも、小さい。
中華鍋の快適な音が聞こえる。
赤いカウンターと、テーブルが、一つだけ。
学生街にある町中華。
鍋を振るうご主人と、ホール係の奥さんの2人だけのお店。
サッカー選手11人が入ると、満席になるくらい。
ご主人が、小さく会釈。
あなたは、常連であることがわかる。
カウンターに座る。
決して新しくないけど、掃除が行き届いている。
静か。
おや。
町中華にお約束の短冊型のメニューが、ない。
カウンターにも、ない。
店の奥さんが、水を出しながら、「いつもの?」と聞いた。
あなたが、微笑むと、ご主人にオーダーを通した。
中国語だった。
ご主人は、「もう、作ってたよ」と日本語。
他のお客様も、みんな常連さんの風情を醸し出している。
工芸品関係のお店のご主人っぽい品がある。
ほとんど、お一人様のお客さん。
「一見さんお断り」と書いてないけど、観光客は、入るのに勇気がいる。
お隣のお客さんは、割烹のご主人のような雰囲気。
出された料理は、春巻き一本。
このお店では、春巻きが1本から、オーダーできる。
割烹のご主人と、目が合った。
「これ、いけますよ」
とも、
「2本は、よう食べんねん」
とも、言うように、笑顔から感じ取れた。
メニューがないのは、ご主人の優しさからであることが、わかった。



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