#856 通りすがりなのに。
あなたの親しみやすさが好き。
あなたと、下町。
江戸時代の庶民の街を再現している資料館に寄る。
あなたが、解説してくれる。
まるで、あなたは、住んでいたかのように、解説してくれる。
これから時代劇を見るのが、楽しみになる。
それから、お目当てのカフェに。
最近、このあたりに、おしゃれなカフェが次々と生まれている。
あなたは、古地図はすごく見る。
でも、今の地図はあまり見ない。
「たぶん、こっちな感じ」
と、自信を持って、ずんずん歩く。
このあたりは、江戸時代の水運の街。
昭和に入って、自動車の時代になると、倉庫が余った。
その倉庫に、若いアーティストが集った。
柱がなくて、天井が高いので、アトリエに向いていた。
そこに、アメリカの自家焙煎でハンドドリップにこだわる珈琲店ができた。
すると、次々と、他のハンドドリップの珈琲店が集まった。
今日、行こうとしていたお店も、元は、倉庫兼アパート。
カフェと知っていなかったら、古びた倉庫と思って、入れなかった。
中に入ると、若者たちでいっぱい。
若者は、知っている。
いい雰囲気。
あなたが、スタッフと話している。
あなたは、少しでも、私がお店の空気を吸えるように、わざと時間稼ぎをしてくれている。
「また、来ます」
あなたが感じよく、お店を出る。
すると。
自転車に乗ったおばさんが、「あっちに、大きいのがあるよ」
あなたは、何もたずねていない。
自転車の籠には、大きなお皿が入っている。
買い物の帰り。
いかにも、近所の人。
「右へ曲がって、左に入った所」
お礼を言って、歩いていた。
右に曲がって、左に入ろうとした時、声が聞こえた。
「もう一個、先の角」
自転車のおばさんは、間違えないか、見ていてくれた。
かなりの距離がある。
やさしい。
あなたは、見ず知らずのおばさんにも、愛される。
丁寧に、会釈をして、角を曲がった。