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#857 立ってますよ。

あなたの声のかけられ方が好き。
あなたと、新幹線の駅のホーム。
乗るのぞみが、入ってきた。
「襟、立ってますよ」
男性に、声をかけられた。
私?
私は、襟なしのジャケットを着ていた。
あなたが、振り返った。
振り返った先に、一人の男性が、微笑みながら、あなたを見ていた。
手は、襟を触る仕草で。
その仕草が、いかにも、爽やかだった。
「ありがとうございます」
あなたも、爽やかに、笑顔を返した。
お知り合い?
あなたも、知らない人だった。
にもかかわらず、声をかけてもらった。
知らない人の襟は、立っていても、わざわざ言うほどのことではないはず。
しかも、のぞみに乗る、慌ただしい時間に。
それでも、声をかけてもらえるのは、あなただから。
声をかけてくれた男性が、あなたを知っていたという感じでもなかった。
たぶん。
あの感じのいい男性は、あなたを見ていたに違いない。
かっこいい人がいるな、と。
そして、襟が立っていることに、気づいた。
次の瞬間、声をかけたくなった。
声をかけることで、関わりが生まれる。
残念な人の襟が立っていても、別にどうでもいい。
カッコいい人の襟が立っていると、直してあげたくなる。
母性本能。
男性でも。
そういえば。
前に、女性があなたのところに、駆けつけてきたことがあった。
「失礼します」
そう言うと、その美人は、あなたの襟を直した。
「失礼しました」
「こちらこそ、ありがとう」
彼女のほうが、嬉しそうだった。
あなたのジャケットの襟を触ることができた。
ひょっとして。
あなたは、接触のチャンスを作るために、襟を立てているのかもしれない。
そんなことをすると、また忙しくなってしまうのに。
男性まで。
教えてくれた男性が、隣の車両に乗る直前、振り返って微笑んだ。



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