#866 恍惚の、1分30秒。
あなたのアドリブが好き。
あなたとダンスのデモンストレーション。
緊張する。
朝から、髪を作って、着替える。
リハーサルは、一回だけ。
いつも練習している場所よりも、やはり大きい。
リハは、特に間違えることもなく、終了。
控室で。
あなたは、サンドイッチを、美味しそうに食べている。
まるで、いつものよう。
「おいしいよ」
本当に美味しそう。
本番まで、まだ何時間もある。
「食べておいたほうがいいよ」
と言わない所が、あなたらしい。
他のデモンストレーションのカップルも、誰一人、サンドイッチに手を付けていない。
そして本番。
ダンスが始まる。
本番なので、つい力が入ってしまう。
あらっ。
いつもより、曲が長い。
同じCDを使っているはずなのに。
わかった。
いつもより大きく回ったことで、ラストのステップに入ってしまった。
このままでは、曲が1分30秒、余ってしまう。
あんなに練習してきたのに。
さっきのリハでは、ノーミスだったのに。
「好きに、踊ろうね」
あなたが、笑った。
ついていきます。
誰も、アドリブで踊っていると気づかなかった。
ダンスの神様が、客席で笑っているのが、見えた。
そして、こう言った。
「それが、ダンス」
これが、ダンス。
恍惚の1分30秒を、味わっていた。