#887 ウサギと、一緒に。
あなたの美術館の歩き方が好き。
あなたと、展覧会。
不思議な展覧会。
この美術館は、不思議な企画展が多くて、面白い。
順路が、わからなくなった。
こっちは、見たかな。
あ、これは、さっき見た。
こっちは、さっき来た道。
迷子になる。
それも、美術館の楽しみ。
「順路が、わかりにくい」と、学芸員さんに怒っているおじさんがいた。
「もうしわけございません」と学芸員さんは、謝っていた。
その学芸員の彼女は、さっき「どちらが順路ですか」と聞かれた時、「お好きな方へどうぞ」と答えていた。
前歯のかわいい学芸員の彼女は、なかなか。
相手によって、対応を変えている。
最近の美術展は、順路がわからないものが多い。
順路が、わからないのではない。
そもそも、順路がない。
順路がないから、2回見るものもあれば、見逃すものもある。
それでいい。
それが、人生。
「見逃すじゃないか」と怒っているおじさんは、結局、2回見ても、覚えている訳ではない。
覚えていないから、順路を求めるのだ。
分かれ道になった。
どっちかな。
キョロキョロしていると、あなたは、スイスイ、迷いなく進んでいった。
どうやって、選んでるの。
「ウサギに、ついていっているだけだよ」
あなたの視線の先には、ウサギの足跡が、あった。
あなたは、作品だけでなく、床も見ていた。
ひょっとして。
「さっきから、ずっとあったよ」
「ウサギを追いかけて」と、あなたは言わなかった。
「ウサギに、ついていって」
そういうあなたが、優しい。
さっきの学芸員さんは、ウサギに似ていた。