#898 ホームズのように。
あなたの観察力が好き。
あなたと英国アンティークの博物館。
階段を上がると、外の喧騒とは全くかけ離れた世界。
一気に、19世紀のイギリスにタイムスリップする。
食器が、並べられている。
あらっ。
シルバーのイメージがあったのに、ゴールド。
館長さん自ら、案内してくださる。
館長さんは、「シルバー」と説明している。
どう見ても、ゴールド。
理由が、わかった。
照明が、当時のロウソクを再現していた。
シルバーは、ロウソクの光では、ゴールドになるのだった。
赤い光や、青い光で、色を変えるのが、シルバーの魅力だった。
照明に、こだわりがある。
暖炉があった。
ソファーが、暖炉に背を向けて置かれている。
ソファーのデザインを見せるためだろうか。
違った。
暖炉に、背を向けておくのが、正しい置き方だった。
そうすることで、暖炉の熱を逃さないのだった。
キャンプファイアーで、焚き火を丸く囲むのは、熱を逃さないためだった。
あなたと、キャンプファイアーをしているところを、思い浮かべた。
頭の横が、羽根のように広がっているのは、顔に熱が当たりすぎないためだった。
紳士用と、淑女用の肘掛けの形も、分かれていた。
巨大な蓄音機があった。
館長さんが、100年前のビッグベンの鐘の音が録音されたレコードを、わざわざかけてくださった。
エリザベス女王が生まれた頃の音。
街の喧騒も、響きの隙間に、入っている。
ビクトリア朝のドレスも展示されていた。
館長さんが、説明をして、次の説明に入ろうとした時、あなたが言った。
「館長さん、向きがいいですね」
それを聞いて、館長さんが微笑んだ。
「そうおっしゃったのは、初めてです」
ビクトリアン・ドレスを着たマネキンは、斜め後ろを向いていた。
ドレスの背後を見せるためだと思っていた。
たしかに、後ろ姿に、ドラマを感じた。
あなたと館長さんのやり取りが、ホームズとワトソンの会話に見えてきた。