#903 沈む時も、燕尾服に着替えて。
あなたの眺める姿が好き。
あなたと、ホテルでサンデーブランチ。
オープンは、12時から。
早めに、着いた。
オープンを待っている他のゲストは、ロビーで寛いでいた。
そんな時。
あなたは、座ってはいない。
あなたは、ドアを開けて、テラスに出た。
そこには、まさかの庭園。
しかも、枯山水。
地上50メートル。
たんぽぽが、風に揺れている。
枯山水は、回遊式になっていた。
いつものように、あなたは、初めてでも、コースを感じる。
コースを知っているのではなく、コースを感じている。
自然が、あなたを招いている。
その後の食事は、自然に感度を研ぎすまされたので、いつも以上に、美味しかった。
食事後。
化粧室から戻ると、廊下で、あなたが何かを見つめていた。
その姿が、映画のようだった。
私は、すぐに近づけなかった。
離れて、あなたを見ていた。
ホテルのマネージャーが、あなたに話しかけた。
「全部、レゴでできているんです」
あなたは、言った。
「タイタニック号ですね」
たぶん、そんな会話だったに違いない。
マネージャーは、あなたがあまりにもしみじみ眺めているので、話しかけたに違いない。
タイタニック事故があったのは、あなたの誕生日。
沈む時も、燕尾服に着替えて悠々としていたグッゲンハイム卿の姿に、あなたがかぶった。
眺めているあなたを、私は眺めていた。