#904 むしろ、行くまでが。
あなたの途中の楽しみ方が好き。
あなたと、展覧会。
駅から、博物館への公園を抜ける。
いい天気。
カップルや家族連れで、賑わっている。
遅咲きの八重桜が、名残りを惜しんでる。
気持ちいい。
あなたと歩いていると、もう展覧会は、今度でもいいかなという気分になってくる。
私の気持ちは。
あなたに、伝わっている。
追い越していくカップルの男の子が、つぶやいた。
「遠いね」
それは、味わっていない。
彼女が、ゆったり歩くあなたを見た。
あなたは、楽しんでいる。
行く道までも、楽しんでいる。
美術館までの道を、ゆっくり味わう人と、急ぐ人に分かれる。
急ぐ人は、急ぐ人とつきあう。
味わう人は、味わう人と、つきあう。
たすきがけはない。
だから、うまくいく。
あなたは、味わっている。
もっと、このまま、あなたと歩いていたい。
いつまでも、歩いていたい。
いつまでも、たどりつけなければいいのに。
満員で入れないことを、想像した。
それだったら、きっと、うれしい。
私は、こうして、あなたと美術館に向かう公園を歩いて生きて行くような気がする。
何十年の未来を、思い浮かべた。
時間が、ゆったり流れていった。
桜の花びらが、スローモーションで、舞い上がった。