#907 後ろの席で、堪能させて。
あなたの後ろの席が、好き。
あなたと、新幹線。
混んでいた。
並びの席が取れなかったので、通路際に、前後に座った。
あなたが、前。
あなたの隣の席は、まだ乗って来ない。
空いてるといいなと思っていると、リュックを抱えた女性が乗ってきた。
あなたは、さっと席を立った。
と同時に、言った。
「荷物、載せましょう」
「ありがとうございます」
そして、荷物を載せながら、あなたは付け加えた。
「降りる時、おろしますから、言ってください」
きっと。
この女性も、心の中で思っていたに違いない。
「隣の席が空いてればいいのにな」と。
そして、こう思った。
「残念、いたか」
次に、こう思った。
「きちんとしたスーツを来た人だな」
そうしたら、その人、つまりあなたが立った。
「わざわざ、立ってくれるんだ。うれしい」
そして。
「荷物も、載せてくれるんだ。うれしい」
さらに。
「降りる時のことまで、言ってくれるんだ。素敵」
あなたは、女性の心の声を聞き取っていた。
しかも。
その女性が、乗る前の心の声から。
まだ、あなたは会っていないのに。
私は、心の中で、その女性に話しかけた。
「でしょ」
心の声は、会う前から聴かれているの。
この人は、そういう人だから。
あなたの後ろの席で、よかった。
また、堪能させてもらった。