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#908 目をそらす、アイコンタクト。

あなたの、無言の会話が好き。
あなたと、満員の新幹線。
通路際。
あなたは、前の席に座っている。
女性が、窓際の席に来た時に、あなたは爽やかに立ち上がり、爽やかに荷物を載せてあげ、爽やかに降りる時の心遣いまでした。
女性と、私を幸せにした。
話は、まだ、続いていた。
あなたの2列斜め前方。
背の高い美人のママと、女の子の二人組。
ホームで、待っている時から、目立っていた。
スタイルが良く、帽子を目深に被っている。
帽子の上からも、顔の小ささと、首の長さがわかる。
「外国の人か、モデルさんか」と思って見ていた。
モデルママが、大きなスーツケースを荷棚に載せようとしていた。
そして、載せずに降ろした。
もちろん。
次の瞬間、あなたはそこにいた。
「載せましょうか」
その時、彼女は、言った。
「幅が狭くて、入らないみたい」
そのスーツケースは、女の子の乗り物の形をしていた。
ペダルが幅を取って、網棚の上に載せられなかった。
あなたは、微笑んで、席に戻った。
ここまでは、あなたには普通の光景。
モデルママは、きっと、さっきあなたと窓際の女性のやり取りを見ていたに違いない。
それにしても。
不思議なのは。
「幅が狭くて、入らないみたい」
その言葉は、初対面の人間に、馴れ馴れしくないかな。
恋人同士なら、まだしも。
もちろん、あなたは初対面。
「ありがとうございます」もない。
そうか。
映像を、プレイバックした。
ホームで、あなたは女の子を見ていた。
スーツケースを見ていた。
そして、モデルママを見た。
モデルママは、目をそらした。
目をそらすのが、好きな人へのアイコンタクト。
あなたと彼女は、その時に、テレパシーで言葉をたくさん交わしあっていた。
だから、馴れ馴れしい言葉遣いになった。
謎が解けた。
しばらくして、モデルママは、通路側の席から、あなたを振り返って、微笑んだ。
あなたは、微笑み返した。
ほらね。



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