#916 遠くの音楽を、聴いている。
あなたの聴いている音楽が好き。
あなたと、ブランチ。
南青山の見たことがない西の方の景色が見えるテラス席。
ランチオープンと同時に入った。
先に入っていたのは、女性客が1組。
静かだった。
ラテン系の外国人のウエイトレスが、ドリンクの確認に来る。
あなたには、英語で話しかけた。
女性客のテーブルには、日本語で話していた。
あなたは、英語で返事をした。
小さな声だった。
あなたの小さな声の英語が、かっこよかった。
私は、英語になると、声が大きくなってしまう。
力みが入る。
小さな声だけど、あなたの英語は、自信があるので、伝わる。
大声になるのは、いかにも、受験英語の自信のなさ。
ラテン系のウエイトレスの彼女は、ブランドのポスターに出ていた子に似ている。
彼女が、微笑んだ。
何を言ったのか、私には、聞こえなかった。
あなたの声が、さっき、青山通りを歩いている時より、小さくなっていることに気づいた。
その時、次の女性3人組がテラスに入ってきた。
「わぁー、きれい」「すごーい」「写真、写真」
大声だった。
はしゃいでいた。
まずい。
さっき、私も同じくらい大きな声を出していたにちがいない。
だから。
あなたの声が、小さく感じた。
あなたは、場に合わせて、ボリュームを小さくした。
あなたが、小さくリズムを取っていた。
そのリズムに合わせて、音楽が聴こえてきた。
幻聴?
幻聴ではなかった。
あなたは、遠くから聴こえる小さな音楽を聴いていた。
あなたの声の音量は、その音楽に合わせていた。