#919 ベッドの下に、何かが。
あなたの、現場捜査が好き。
あなたと、英国アンティーク博物館に行った。
シャーロック・ホームズの部屋を再現してあった。
ベイカーストリートの看板は、レプリカではなく、当時のモノ。
ドアに、221Bのネームプレート。
書斎には、シャーロックが弾いていたバイオリンが置かれている。
ガソジンが置かれている。
当時流行したソーダ水を作るための蒸留装置。
シャーロックのストーリーの中に、出てくるものばかり。
振り返ると、驚いた。
そこには、シャーロックの人形が、こちらを見ていた。
さっきから、ずっと見られていた。
背中から視線を感じるように、計算された配置。
あなたは、順路を知っているわけではないのに、館長の計画どおりに動く。
計画にハマっていくことを、楽しんでいる。
シャーロックの寝室が、あった。
意外に、小さい。
当時のイギリス人の平均身長は、今より10センチ、低かったとのこと。
シャーロックは、6フィート。
183センチ。
ちょっと、窮屈だったに違いない。
横に、箱に収納できるおまるがあった。
ベッドサイドにも、小説に出てくる小物が、たくさん置かれている。
本ではなく、映画でしか知らない私も、小説を読み返したくなった。
不意に。
あなたは、しゃがんだ。
そのしゃがみ方は、どこかで見た。
刑事ものの映画だ。
現場に駆けつけた刑事が、現場を見る時の手慣れたしゃがみ方。
あなたは、現場を見ている。
私は、その映画を見ている気分になった。
あなたは、何か気になっている。
何かを、探している。
そして。
ベッドの下を覗き込んだ。
えっ。
あなたは、私を振り返って、微笑んだ。
ベッドの下に、何かを見つけた。
ベッドの下に、何を忍ばせた館長が、見つけてもらって嬉しそうな笑顔が、浮かんだ。