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#924 まるで、人間を撮るように。

あなたの写真を撮る時の優しさが好き。
あなたと、公園に行った。
ここは、前に、夜桜見物に来た。
その時は、真っ暗だった。
ここまで暗くするのだというくらい、暗かった。
本当のライトアップとは、こういうものだという体験になった。
昼間は、初めてだった。
着物の女性が、歩いている。
このあたりは、かつて花街があった名残り。
公園に来る途中に、着物のお直しのお店があった。
中に入ると、以前見たしだれ桜が、青々とした葉を垂らしていた。
その脇で、紫陽花が咲いていた。
色とりどり。
あなたと、シンガポールで食べたかき氷「アイスカチャン」を思い出した。
「アイスカチャン」は、10種類以上のシロップを、全部かけてくれた。
もはやかき氷というよりは、現代アートだった。
いつものように、あなたは、地図を見ないで、池の周りを歩き始めた。
大きな石の橋があった。
創業者の実業家が、石マニアだった。
石の橋は、2枚の長方形の大きな石を、クランク状に繋いであった。
時代は変化するという子孫への教えかな。
景色を見ている人は、きっとクランクに気づかないで、池にはまるに違いない。
実際に、救命具として、浮き輪が置いてあった。
2枚の石が、キスしているようにも、見えた。
カップルの女性が、ここで彼に、抱き付くチャンスを作ってくれているようにも見えた。
庭師の粋な計らい。
日陰の茶屋で、床几(しょうぎ)に腰掛けると、心地良い風が吹いてきた。
あなたと、甘酒を飲んだ。
池の畔に、大きな灯籠があった。
あなたが、写真を撮って、見せてくれた。
えっ?
そこに写っていたのは、灯籠ではなく、王子のシルエットだった。
その王子に、葉っぱの女性が、手を差し伸べていた。
あなたは、何を撮っても、人間として撮っていた。
王子の帽子が、あなたの帽子と、同じだった。



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