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#925 見るのではなく、入る。

あなたの絵の中の入り方が好き。
あなたと、京都の美術館に来た。
昭和初期のモダンがテーマ。
着物の女性が、洋風のことをする。
絵が大きいのは、等身大の女性を描いているため。
ピアノ、ゴルフ、天体望遠鏡。
洋装でするより、モダン。
ワンピースの女性が、和弓。
これは、逆の組合せ。
洋装の日本女性が、日本的なことをしている。
弓を持つ、結柄の位置が、真ん中より下にあることで、和弓であることが分かる。
彼女は、水平ではなく、まるで空を撃つように、高いところを狙っている。
パーマの髪。
ルージュを引いた唇。
横顔が、凛々しい。
シャッター音がした。
写真撮影OKなんだ。
最近の美術館は、撮影OKのところが増えた。
海外の美術館では、昔から、フラッシュなしならOKのところが多かった。
SNSで上げてもらうと、パブリシティにもなる。
あなたが、さっと場所を移動したのは、撮影しようとした女性のためだった。
あなたが、カメラを取り出した。
あなたは、柄に近づいた。
そんなに寄ると、等身大の女性の部分しか、入らない。
そして、1枚。
あなたは、弓を引き絞る大胸筋のためを撮った。
あなたの大胸筋は、さっきから絵の主人公の女性と連動して、広がっていた。
矢の一部しか入らなくても、彼女のためた力がわかる。
そして、もう一枚。
あなたは、しゃがみ込んで、彼女に寄り添うように、撮った。
ほとんど、絵が入るか、入らないか。
あなたは、引いた弓と、平行になるくらいの角度で撮った。
彼女の目線だった。
わかった。
あなたは、絵を見ているのではなかった。
絵の中に、入っているのだった。
私も、心のカメラで、一枚撮影した。
絵の中に、入っているあなたを。



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