#929 傘立ての王子。
あなたの傘の置き方が好き。
今日は、雨。
傘を差してのお出かけも、嫌いではない。
今日は、現地集合。
お店の入り口に、傘立てがあった。
濡れた傘を畳んで、傘立てに入れようとした時。
あっ。
あなたは、先に来ている。
傘立てには、多くの傘が立ててあった。
男性用、女性用。
名前が書いてあるわけではないのに、あなたが来ていることを、直感した。
直感している自分が、面白かった。
傘立てに並んでいる傘の中で、あなたの傘だけが、浮き上がっていた。
あなたの傘かどうかは、わからない。
でも、確実に、この傘は、あなたの傘。
この傘なのではなく、この凛とした、佇まいが、あなた。
それは、もはや、傘ではなかった。
王子だった。
それに比べると、まわりの傘は。
残念ながら、森のトロール。
妖怪。
傘が、高級だからではない。
ここが、大事な所。
王子の傘は、すっと立っている。
あなたの傘は、いつもあなたといるので、あなたの姿勢が移っている。
トロールの傘は、雑に畳まれている。
畳まれているのか、畳まれていないのか、差がわからない。
傘が、切ない。
元は、同じ傘なのに。
持ち主によって、こんなに変わってしまう。
トロールの傘が、王子の傘を羨ましげに、ながめている。
傘立てで、こんなに差がつくなんて。
私は、あなたの傘に、なりたい。
あなたに会う前から、あなたに抱きしめられた気がした。