#938 イメージの、しりとりで。
あなたのイメージのしりとりが好き。
あなたと、ホテルのレストラン。
33階。
窓から、夏の入道雲が見える。
リアルな景色を見ているのに、アニメ映画を見ている気分。
入道雲の白さが、空の青さを引き立てる。
シーティング・ディッシュに、空を舞う鳥が描かれている。
あなたが、何かを見つめていた。
あなたの視線をたどると、面白いものに、たどり着く。
窓際のテーブルの上に、不思議なオブジェが、置かれていた。
何かしら。
きれいなブルーの丸い形。
パフェを乗せるような長い脚。
球体には、隙間がある。
これって、何?
「何だと、思う?」
あなたは、名前で答えない。
機能でも、答えない。
自分なら、どう使うか。
私に、想像させてくれる。
元々の機能は、あなたにとって、どうでもいい。
「金魚を、入れる?」
金魚?
だって、隙間が開いているから、お水が入れられない。
「君なら、名前をなんてつける?」
そうか。
名前は、自分でつければいい。
「夏のそよ風」
やられた。
私は、形から、似たものを探していた。
あなたは、隙間から流れてくる風を見ていた。
見えるものではなく、見えないものを見ていた。
あっ。
金魚鉢。
あなたと行ったマティス展で見た金魚鉢のあるアトリエの絵だった。
あの金魚鉢が、青いアトリエと窓の外のセーヌ川を繋いでいた。
この青いオブジェが、青い空とレストランの中を繋いでいた。
それを私に気づかせるために、
「金魚を、入れる?」
って、言ったのだった。
その時、33階のそよ風が、レストランの中にそよいできて、私の前髪を、ふわりと浮かせた。