#939 目を離すと、映画の中に。
あなたの「たまたま」が好き。
あなたと、ホテルのお食事に来た。
新しくできた外資系ホテル。
「手を洗ってくるね」
あなたが、化粧室に向かう。
初めてのホテルでも、あなたはスイスイと、探し当てる。
私は、ロビーのソファーに座っていた。
お茶室のインスタレーションがあった。
和と洋が、ミックスされている。
あなたは、今頃。
化粧室に行くだけでなく、ホテルを探検している。
きっと、雨に濡れないで、帰ることができる動線を探している。
天気予報で、にわか雨と、言っていた。
あなたは、007。
いつも、敵に襲われた時の脱出ルートを、下調べしている。
化粧室に、行くふりをして。
そんな想像をするのが、好き。
笑いを噛み殺しながら、あなたの方を見た。
やられた。
あなたは、外国人の総支配人と、談笑している。
総支配人かどうかわからないけど、見るからに、総支配人。
雑誌の表紙に出てくるようなかっこいい総支配人。
もはや、総支配人というより、スパイ。
あなたが、総支配人と、ヒソヒソ話していると、MI6の2人のスパイが、情報交換をしているみたい。
いつのまに。
また、その瞬間を見逃した。
きっと、あなたは言う。
「たまたま」
脱出経路を確認しているという私の想像を遥かに上回って、あなたは密談をしていた。
しばらく、眺めていた。
すぐに、近づけなかった。
2人の密談が、あまりに映画的だったから。
私の心の映画のポスターが、また1枚、増えた。