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#943 あなたにだけの、ハート虹。

あなたの「こっそり見」が好き。
あなたと、歩いていた。
信号待ち。
残暑が残る、午後。
誰もが、スマホを見ている。
私は。
あなたを、見る。
あなたは。
空を見上げている。
まるで、空に飛び立つかのような姿勢。
あなたに、しがみつかないと、置いていかれる。
あなたは、ポケットから、何かを取り出した。
そして、すぐしまった。
あまりに速い。
いつものように、私の頭の中で、スロー再生。
あなたが取り出したのは、スマホだった。
写真をさっと撮って、さっとしまった。
空でなかったら、盗撮。
空を、見た。
あっ。
そこには、虹が出ていた。
しかも。
こんな、短い虹を見たことがない。
「ハート虹だね」
やられた。
私には、短い虹に見えていた。
あなたには、ハート型の虹に見えていた。
あなたは、その後も、眺めていた。
あなたの目線に、信号待ちをしていた人が、歓声を上げた。
一斉に、スマホを出した。
一斉に、ため息がもれた。
その時には、ハート虹は、雲に隠れていった。
写真に、収まる前に。
ハート虹は、あなたにだけ、盗撮させてくれた。
信号待ちで、空を見上げている人は、あなたくらい。
ハート虹は、それを知っていた。
私は、盗撮を、こっそり盗撮した。



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