» page top

#947 お座布団が、あるように。

あなたのお仏壇での佇まいが好き。
あなたと、京都の町家のレストランへ。
と、思っていた。
入ると、そこは、レストランではなく、お家だった。
100年以上続く呉服問屋の町家で、有形文化財に指定されている。
ただ保存すると、人の気配がなくなってしまうので、美術館として、食事も出している。
食事も、仕出しではなく、家の台所で調理されている。
まず、家中を案内していただいた。
よく「京都の人は、美術館に行かない」と言われる。
理由が、わかった。
家が、すでに美術館。
京都の人は、美術館の中で暮らしている。
美術館にあるものは、家にもある。
だから、わざわざ見に行かなくてもいいのだ。
その美術は、しかも生活に紐づいている。
季節ごとの、行事とリンクしている。
あなたは、食事をしてきた人ではなく、お家に招かれた人だった。
おもてなしとして、食事を出されるだけだった。
たっぷり奥まで、案内していただいた後、お食事の席に、案内していただいた。
驚いたことに、床の間だけでなく、お仏壇があった。
まさに、お家。
お仏壇のある部屋で、食事を頂いてもいいのかと申し訳ない気持ちになった。
「ご挨拶させていただいて、いいですか」
あなたが、声をかけた。
「ぜひ、どうぞ」
と、お許しを頂いた。
家の人も、嬉しそうだった。
あなたのお仏壇の前の佇まいが、美しかった。
素晴らしいお鈴の音が、響いた。
あなたに続いて、私も。
あらっ。
さっきに、あなたの時は、お座布団があった気がした。
お座布団は、なかった。
あなたは、お座布団がある体で、お仏壇の前に、にじったのだった。
お鈴の音も、自分で鳴らした音と違った。
あなたのお鈴の鳴らし方を、頭の中で、リプレイした。
それは、私の実家のお仏壇に来たいただくお上人さんと、同じ作法だった。
坪庭から、涼やかな風が、部屋の中に吹いた。



【中谷先生のおすすめ電子書籍TOP3】 紹介記事はこちらからどうぞ