#951 流れるような、快感。
あなたのいいところを見逃すのが好き。
あなたと、博物館のパーティーに。
開場時間に、会場につく。
まだ、来ている人は少ない。
たいてい、開演直前にやってくる。
あなたは、まるで主催者側のように、開場時間に到着する。
主催者のスタッフを見つけて、言葉を交わす。
スタッフの女性も男性も、あなたを見つけて、顔が明るくなる。
それまで、準備がバタバタしていたのが、あなたが来たことで、労われた気がしている。
クロークに、カバンを預ける。
ここでも、スタッフと、雑談をしている。
「お帽子も、お預かりしましょうか」
スタッフが、声をかける。
あなたは、お招き口を振り返る。
「館長が、帽子を被られているので、合わせましょう」
決まりごとより、その場の演出を優先する。
そして、受付。
ここでも、雑談。
お招き口では、館長さんと記念撮影。
秘書の人とも、雑談。
会場に、入る。
まだ、ホテルのスタッフしかいない。
あなたは、席を確認すると、MCの女性に声をかけた。
緊張気味だったMCの女性は、ホッとした顔になった。
「写真、撮りましょう」
「ぜひ」
あなたは、スマホをさっと取りだして、さっと並び、さっと自撮りした。
「送りますね」
その間、ほぼ1秒。
流れるような動き。
写真を撮る人は多くても、MCの写真を撮る人は少ない。
きっと、いつも切ない気持ちなのを、あなたは気づいている。
即、あなたのスマホに「写真、ありがとうございました」と、届いた。
わずか、1分後。
それまでの間に、あなたは、もう写真を送っていた。
初対面なのに。
いつ、アドレスを交換したのか、見逃した。
あまりにも、スムーズ。
また、見逃してしまった。
見逃す快感を、味わった。