#953 味変、させて。
あなたのトッピングが好き。
あなたと、42階の和食レストラン。
3階のウェイティングバーに行くと、あなたがカウンターのスツールに座っていた。
片足をフロアにつけて。
それが、いかにも映画だった。
立っているより、立っている感じがした。
私が先に見つけて、眺めていた。
つもり、だった。
私が、あなたを見つける前から、あなたは私を見つけていた。
私が、あなたを眺めているのを、眺めていた。
42階に上がる。
イタリアンレストランの方は、披露宴パーティーで賑わっていた。
私達は、和食レストランに案内された。
42階に、路地が設えられていた。
石の延べ段があり、坪庭があった。
仲居さんは、あなたのテンポに合わせて、歩きのテンポを上げた。
あなたは、設えも味わいながら、テンポも落とさない。
私は、つい設えに見とれてしまって、はぐれてしまう。
お部屋は、掘り炬燵だった。
あなたは、掘り炬燵の座布団の座り方も、若旦那だった。
それに比べると、私の座り方は、尻もちだった。
ナプキンに、千代紙の折鶴。
あなたは、ナプキンの模様を見ていた。
さらに、テーブルの木目を味わっていた。
味わい方の深さが違う。
掘り炬燵から、高層階の窓の景色を見るのも、不思議な感覚だった。
あの緑は、何かしら。
「皇居だよ」
えっ、距離的に離れているのに、真下に見える。
あの、ビルは。
「池袋のサンシャインだね」
池袋が、すぐそこに見える。
それだけ高い所で、しかも掘り炬燵。
私は、銀鱈の西京焼き御膳。
あなたは、お刺身御膳。
あなたは、前菜で出てきた鮪のしぐれを残していた。
私だったら、その時食べてしまっていた。
そして、私のご飯の上に、お供として乗せてくれた。
そして、お刺し身についている岩のりも、私のご飯に乗せてくれた。
さらに、いくらも、乗せてくれた。
私のごはんが、豪華になった。
もちろん、ご飯をお変わりした。
お供に、今度は、イカのお刺し身を、乗せてくれた。