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#968 どこまでも、行く。

あなたの行くしかないところが好き。
あなたと、北鎌倉。
禅寺に入る。
紅葉の盛りより、少し早いだけで、静か。
お参りをする。
しまった。
お賽銭の小銭が足りない。
こんなにたくさんお堂があると、思っていなかった。
そんなこともあろうかと。
あなたは、私の分の小銭まで、用意してくれている。
お参りをして、帰ろうと思った。
あらっ。
ねぇ、これって。
小さな標識があった。
そこには、国宝と書かれていた。
そこは、駐車場だった。
こんな時、あなたに迷いがない。
道には迷うけど、決断には迷いがない。
「行ってみよう」
明らかに、駐車場だった。
駐車場の奥に、細く曲がりくねった道が続いていた。
あっ、リスが。
気づくと、頭の上を、リスの大群が、飛び回っていた。
奥は、どんどん続いていた。
鎌倉の禅寺は、繁華街から離れたところにある。
切通しの中にあるので、伽藍配置が、縦長になっている。
だから、通常、ここで終わりというところで終わらないで、どんどん奥に伽藍が続いている。
まさに、禅の思想。
あやうく、帰るところだった。
国宝の矢印。
そこには、見上げるほどの急な石段が続いていた。
「ヒール、大丈夫?」
もちろん、行くしかないでしょ。
あなたは、私の後ろに回って、守ってくれた。
あなたが、カバンを持ってこなかった理由が、今わかった。
もう少し。
たどり着いた。
そこは、頂上ではなかった。
右に、また同じくらい急で長い石段が、続いていた。
あれで、終わりではないかもしれない。
これが、禅。
行くしかないでしょ。
あなたを、振り返った。
あなたの微笑みが、行こうと告げていた。



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