#972 ドアを、ターンさせて。
あなたのドアの開き方が好き。
レストランの個室。
先に、入って待っててと伝言があった。
先に来て、あなたを待つのも好き。
ドアが閉まっている。
待っているのは、私だけではない。
たぶん。
お部屋も、あなたを待っている。
そして、あなたの軽やかな、足音が聴こえる。
16ビートで、しかも、なめらかに歩いている。
そして、ノック。
あなたのノックは、他の人と、全く違う。
まるで、音楽。
軽い。
そして、優しい。
あたかも、話しかけてるみたい。
音が、上から聴こえる。
ドアが、軽やかに、響く。
その響きを、少し、感じていた。
すぐ開けなくていい。
ノックがあって、ドアが開くまでの瞬間が、好き。
想像した。
少し巻き戻して。
あなたが、ドアの前に立つ。
ドアの前で、慌ただしく、叩いたりしない。
あなたは、ドアの前で、一度、姿勢を整える。
そこが、王子。
背が、10センチ伸びた所で、中指の関節を、持ち上げる。
高い。
あなたは、肘から高く上げている。
高いところから聞こえているのではなく、本当に高い所を、ノックしている。
あなたは、ドアを見つめている。
ドアは、少し照れている。
そして、開く。
開くのではない。
ドアが、回転する。
あなたは、高く上げた右手で、ドアを一回転させていた。
ドアが、気がついたら、ダンスをしていた。
ドアの向こうから、微笑みが、漂ってきた。