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#973 後ろ姿の、ある人。

あなたの後ろ姿が好き。
あなたと、美術館に向かっていた。
温かい日だったので、大勢歩いていた。
その時。
後ろから、呼びかけられた。
「先生」
振り返ると、紳士が、微笑んだ。
「やっぱり、先生だ」
やっぱりということは、その人は、すれ違った人ではなかった。
普通、気づくのは、前から見て。
すれ違った後。
後ろから見ただけなのに、あなただと、気づかれた。
しかも、大勢歩いている中で。
気づいた紳士も凄い。
気づかれたあなたも、さすが。
「後ろから、一目で、わかりますよ」
私は、あなたを後ろ姿で見つける。
それは、私だけでは、なかった。
あなたには、後ろ姿がある。
変な言い方だけど、後ろ姿のない人もいる。
後ろ姿は、ある人とない人がいる。
後ろ姿のある人のほうが、圧倒的に少ない。
だから、大勢いればいるほど、後ろ姿のあるあなたは、一目でわかる。
前姿が立派だからといって、後ろ姿があるとはかぎらない。
前姿が立派でも、後ろ姿が、あららという人もいる。
安いスーツでも、前はそこそこちゃんとしている。
ところが、後ろ姿に予算が回っていない。
上質なスーツは、後ろ姿を前よりも、手間と予算をかけている。
人間も、同じ。
「何、笑ってるのかな」
そんなことを考えていると、つい嬉しくなって、笑ってしまっていた。
美術館に、着いた。
作品を見ていると、後ろから声をかけられた。
「先生」
ほらね。
振り返ると、美人が微笑んでいた。



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