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#979 クリスマスの奇跡。

あなたの見せてくれる奇跡が好き。
クリスマス・イブの夕方。
一本裏道にある隠れ家レストランに、あなたと向かっていた。
裏道も、いつのまにか、雑誌で紹介されてから、人通りが増えた。
外国人の観光客の人も多い。
一台のタクシーがゆっくり入ってきた。
細い道は、一方通行だった。
歩く人を、かき分けるように、タクシーは進んだ。
その時、一人の男性が叫んだ。
「こんな道、通らせんなよ、コラ」
人通りが多いとわかっているのに細い道に入って来たことへの怒りだった。
同時に、私は、あなたの腕の中にいた。
「大丈夫?」
私は、ちょっと、味わっていた。
うっとり気分を。
「気をつけて」
その言い方が、優しかった。
その言葉は、私にだけの言葉ではなかった。
罵声を浴びせたおじさんにも、かけられていた。
おじさんは、普段、会社で上司に怒鳴られていた。
浴びせかけられた言葉を、吐き出す瞬間を探していた。
悪い人では、なかった。
お店の場所を知らない乗客は、「手前から、歩きます」と言ったにちがいない。
人のいい運転手さんは、「お店の前まで、行きましょう」と言った。
誰も、悪くない。
コラおじさんの連れの奥さんは、驚かせた周りの人に、会釈をしていた。
奥さんも、夫が、いつも会社で苦労していることを知っていた。
この細い道にいる人たちは、みんないい人たちだった。
コラおじさんの罵声は、みんなの心の中に、ちょっとあったイライラだった。
その罵声のおかげで、「そこまで言わなくても」と、イライラが洗い流された。
おじさんは、みんなのイライラを吹き飛ばしてくれた天使だった。
一人でいたら、「今日、怒鳴ってるおじさんがいたのよ」で終わっていた。
あなたのそばにいると、周りの人の優しさが、伝わってくる。
クリスマスの奇跡だった。



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