#984 夜明け前を、一緒に見る。
あなたと見る夜明け前が好き。
早朝。
というより、まだ、夜明け前。
あなたが、窓の外を、眺めている。
地平線の下は、黒。
上は、濃紺。
その境目に、赤い線が入っている。
赤い線に、東京タワー、六本木ヒルズ、麻布台ヒルズが、浮かび上がる。
夜明けではなく、夜明け前。
あなたは、さっと、写真を撮った。
速い。
いつものように。
一枚しか、撮らない。
撮ったのを、見逃してしまうくらい、速い。
ためらいがない。
そして。
撮った後、また、撮ったのを忘れるくらい、夜明け前の空を眺めている。
写真を撮る人は、写真を撮ると、撮った写真を見ている。
あなたは、逆。
風景を、眺めている。
風景との思い出を、風景と共有している。
あなたの撮る写真には、物語がある。
風景を撮っても、そこには人がいる。
人が、一人も写っていなくても、人の気配を感じる。
撮る人。
風景の中に、隠れている人。
さっきまで、いた人。
これから、やってくる人。
あなたは、風景を愛おしんでいる。
その風景の中にいる人を、愛おしんでいる。
夜明けまで、まだ時間がある。
あなたと、一緒に夜明け前を見ている。
この時間を、私の心のカメラで、撮影をした。