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#994 突然の、エチュード。

あなたの黙っていてくれる所が好き。
あなたと、屋根裏部屋のようなコーヒー専門店。
静かな店内に、一組のカップルが、入ってきた。
私は、部屋の隙間に、すっぽり埋まっている。
カップルは、あなたの背中側に、座った。
彼女が、話し始めた。
つい、聞き入ってしまった。
「私たちは、一体どういう関係なの」
彼女が、彼に迫っている。
さっきまでの静けさが、がらりと変わった。
どういう状況?
「僕はまだ、いろんな子とも、つきあいたいし」
男性は、背中側しか見えない。
「こないだもさ」
女性は、押し続ける。
「他の子と、キスしてたでしょ」
彼は、話題を変えた。
「イタリアは、いいな、遅れても、叱られないし」
会話の噛み合わなさが、切迫感を感じる。
「これから、一緒に、店行くの」
店?
まだ、午後2時を過ぎたばかり。
「みんなに、一緒の所、ばれるじゃん」
かれは、のらりくらり。
「じゃあ、○○行く?」
彼女は、テーマパークの名前を挙げた。
休みなのが、仕事の合間なのか。
静かなコーヒー専門店の屋根裏部屋でのエチュード。
私は、一幕劇を、楽しんでいた。
あなたは。
私が、聞き耳をたてて、お話を推理している間、ずっと黙っていてくれた。
そういう所が好き。
あなたは、聞いているわけでもない。
たぶん、深煎りのニレコーヒーを味わっている。
そして、二人が出ていった後、私の推理をニコニコしながら、聞いてくれる。



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