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#996 見つめる人を、見つめる。

あなたの見つめ方が好き。
あなたと、写真展の内覧会。
明治生まれの写真家の展覧会。
日本にまだ、写真家というアーティストが存在しなかった時代からの写真家。
写真が、芸術としてみなされていない時代から、アートとしての写真を撮り続けている。
時代の荒波の中で、様式をどんどん変化させている。
一人の写真家の写真展とは、思えないくらい。
まさに、この写真家の人生が、日本の写真の歴史でもある。
こういう時の感想は、難しい。
助かるのは。
あなたが、感想を聞かないでいてくれることだ。
あなたと、展覧会に行くのが楽しいのは、無理やり話さなくていいこと。
話す時は、話す。
話さない時は、話さない。
そういえば。
あなたは、写真店の隣に住んでいたと、聞いたことを思い出した。
父方の伯父さんが写真店を営んでいた。
隣の家とは、ドア1枚で繋がっていた。
ドアを開けると、もうそこは、写真店のスタジオだった。
鍵は、かかっていなかった。
現像のアンモニアの匂いの中で、育ったということを、思い出した。
あなたが、1枚の写真の前で、立ち止まった。
ある画家の肖像写真だった。
寡黙で、見つめる画家だった。
写真の中でも、画家は何かを、見つめていた。
どこか、あなたの眼差しに、似ている。
あなたは、よく何かを、見つめる。
じっと見つめる。
それは、見るのではなく、たしかに、見つめている。
見つめている時、あなたは、ここにはいない。
どこか遠くの宇宙を、漂っている。
見つめている人は、忘我の境地にいる。
その写真を、あなたは、見つめていた。
見つめるあなたを、私は見つめていた。



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