#146 紳士に、抱かれたい
あなたの紳士的なところが、好き。
あなたとカフェで朝食をしていた。
朝食を、これから仕事でもなくても、ネクタイをして、スーツを着て食べるあなたが好き。
トマトスープが、おいしい。
静かで、贅沢な時間。
突然、大きな音がした。
2つ隣のテーブルのカップルの男性が、なにやら騒いでいる。
ウエートレスの女の子が、トマトスープのカップを床に落とした。
そのはね返りが、ジャケットにかかったらしい。
ウエートレスの女の子は、泣きそうな顔をしている。
男性は、ぶつぶつ言い続けている。
お店中のお客さんが、そのほうを見ていた。
あなただけが、私のほうを見て、私の映画の話を聞いてくれている。
ウエートレスの彼女が、あなたのところに来て、耳元で何かをささやいた。
あなたは、ちょっと振り返ると、テーブルの紙ナプキンをさっと当てて、微笑みながら言った。
「取れました」
あなたのスーツにもかかっていた。
高級そうなスーツに、ますます困惑した彼女の顔が、あなたの微笑みに、笑顔を取り戻した。
その後、あなたは、何事もなかったかのように私のほうを向いて、私の映画の話を聞き続けてくれた。
食事を終えて、カフェを出た。
行ってきますのキスをして、私は仕事に向かった。
地下鉄の中で、あなたにメールを送った。
「さっき、紳士を見た。したくなった」
スーツを着ることより、レディファーストをすることより、スーツにトマトスープをかけられても、相手を思いやれるあなたの紳士的なところに、欲情した。
次の日の朝食も、同じカフェでするあなたの紳士的なところに、また欲情してしまった。
~次回は1月25日(月)更新予定です~