#156 見せてと、言ったら
あなたのダンスが、好き。
初めてあなたに会った時、一目でダンサーだと感じた。
クラシック・バレエかな。
ただ、立っているだけなのに、あなたの背中には、羽が生えていた。
あなたは、フロアから、浮かんでいた。
歩いているというよりは、アイススケートのように、すべって近づいてきた。
「ダンスを、されてるんですね」
と、言おうと思った。
ところが、口から出た言葉は違った。
「今度、ダンス、見たいです」
ダンスをしているかどうかは、通り越して聞いていた。
普通、ここでは「どうして、ダンスをしてるって、わかったの?」とか「今度ね」という返事が返ってくるところだった。
私の唇は「ぜひ」という形になっていた。
ところが、あなたは他の男の子とは、違っていた。
返事をするかのように、私をふわりと、抱きあげた。
次の瞬間、私の身体は、宙を舞っていた。
「今度、ダンス、見たいです」
と言っただけなのに、あなたは、私を踊らせてくれた。
見るどころか、私自身が、踊らされた。
見るよりも、もっと凄いことをしてもらった。
何が起こったのか、わからなかった。
「見たい」と言うと、こんな風にしてしまうのが、あなただった。
「今度」と言うと、今ここでしてしまうのが、あなただった。
あなたは、言葉が何手も先にスキップする。
1、2、3と進むのではなくて、1、5、9と進んでいく。
そうそう、こうしてほしかったの。
私の気持ちを先に予言して、実現してくれる。
そして、今も、こうしてる。