#158 伏せ字を、読んでくれる
あなたの、暗号解読力が好き。
バレンタインのチョコを渡した。
「ありがとう。手紙、読んでいい?」
ダメ、恥ずかしいから。
あとで、読んで。
普通の男の子は、あとで読む。
でも、あなたは普通じゃない。
「読みたい」
ほんとは、今、読んでほしいという私の気持ちを知っている。
恥ずかしいことを、されたい。
チョコに添えた手紙を、目の前で読まれるほど、照れくさいものはない。
「大好きな先生に」
ちょっと、声に出して読むの。
「『読んでいい』って、言ったでしょ」
まさか、声に出して読むとは、思わなかった。
「思いをこめて」
照れくさい。
裸を、見られているみたい。
さっきまで、見られていたのに。
「一生、よろしく、お願いします。ハイ、わかりました。一生、引き受けます」
そんなこと、書きましたっけ。
「『思いをこめて…』って、あるよ。この『…』が、『一生、よろしく、お願いします』という意味でしょ」
はい、そうです。
あなたは、4個入りのチョコの1つを口に入れた。
アルコールが入っているチョコだった。
お酒に弱いのに、この後のお仕事、大丈夫?
「もう、君に酔ってるから、大丈夫。じゃあ、半分、あげる」
キスをしながら、チョコの半分が、私のお口の中に滑り込んできた。
あなたのアルコールのほうが、強烈だった。
あなたの「一生」という言葉が、リフレインしていた。