#170 あなたの食べ方が、好き
あなたの食べ方が、好き。
夕方、1人で、とんかつ屋さんに入った。
今日は、中華の予定だったけど、この間、あなたとトンカツの話が出たのを思い出して、急きょ変更。
席に案内されて、メニューを選ぶ。
組み合わせを考える。
その間に、隣の席に、次のお客さんが入ってきた。
ヒレカツ膳。
隣の男性も、ヒレカツ膳。
隣といっても、テーブルがくっついているので、4人がけに、壁側に並んで座っている形。
近すぎるので、顔は見えない。
このお店では、キャベツが先に運ばれてくる。
ほぼ同時にお店に入って、ほぼ同時に注文したので、まるで2人組のよう。
こういう時、たいてい感じが悪いことが多いのに、ちっとも感じが悪くない。
見えないけど、紳士の気配がする。
ひょっとして、あなた。
まさか。
でも、なんで話しかけないの。
あなたは、こういういたずらをよくする。
靴を確認した。
ピカピカに磨かれた靴。
ますます、確信を得た。
ドレッシングやソースは、2人の真ん中にあって、共用する形になっている。
見たいのに、見れない。
ヒレカツが、届く。
ソースのひしゃくの柄が、いつのまにか、私の方を向いている。
やっぱり、あなたでしょ。
私は、ドキドキしながら、話しかけないで、あなたの食べる気配を感じていた。
あなたの、食べ方が紳士的で好きだなと、味わっていた。