#182 ゆでタマゴのように、むかれて
あなたと、朝ごはんを食べるのが、好き。
カフェで、モーニング・セット。
トーストは、どのお店にもあるけど、お店によって味が違う。
トーストなんて、どのお店でも同じじゃないという男の子とは、やっぱり違う。
このお店のトーストが、おいしい。
近所の3軒あるモーニング・セットを食べ歩いて、ここのトーストが一番おいしいなと感じていた。
あなたも、同じだったのも、うれしかった。
あなたは、トーストの耳の部分を、コーヒーにつけて食べる。
私も、まねしてみた。
おいしい。
こんなはしたないことをしてはいけないと思っていた。
あなたがすると、まるでイギリス貴族の朝の習慣のように見えるから、凄い。
コーヒーに、うっすらバターが広がる。
バターコーヒーというのも、あなたに教えてもらった。
街の喫茶店が、イギリスの郊外の別荘になる。
パンくずの払い方まで、おしゃれ。
手品師が、次に何かを出す仕草に似ている。
ゆでタマゴがついている。
あなたは、まるでマジックのように、底の方を、テーブルでコンと叩く。
数回に分けてではなく、1回だけ、というのが潔い。
私を、見つめながら、タマゴの殻をむいていく。
タマゴに、ジッパーがついていたかのように、殻が見事にむかれていく。
むかれるというより、脱がされていく。
殻と、白身の間にある、スリップのような薄皮まで、キレイに脱がされている。
つるつるの全裸のタマゴが、あなたの手の中にある。
殻の欠けらどころか、割れ目すら入っていない。
そのつるつるのタマゴが、私の唇の間に、差しこまれた。
唇に、心地いい感触が伝わった。
次の瞬間、私が持っていたタマゴが、あなたの手の中で、丸裸にされていた。