今回は『スティーブズ』を連載中の、マンガ家ユニット「うめ」の小沢高広氏にメールインタビュー。2010年に「Amazon Kindleダイレクト・パブリッシング」で『青空ファインダーロック』をリリースし、日本人マンガ家として、いち早く電子コミックに取り組まれてきました。誰よりも長く電子コミックを身近に見てきた人なのではないでしょうか。これからの電子書籍の在り方とは、未来の電子コミックとは、切り込んでいきます。また、「うめ」は、小沢氏(シナリオ・演出)と妹尾朝子氏(作画・演出)の男女ユニット。2人は夫婦でもあります。プライベートや、オススメの本についてもお伺いしました。
『スティーヴズ』1巻(小学館)、同巻第3話より
6年経った今でも、漫画家にとって「面白い漫画を描く」という基本は、紙だろうが電子だろうが、まったく変わりません
――小沢さんは、2010年、日本人マンガ家として初めて「Amazon Kindleダイレクト・パブリッシング」をされたことで話題になりました。いち早く電子でマンガを出版したきっかけは、何だったのでしょうか? また、その当時の周囲のマンガ家からの反応はいかがでしたか?
それだけで食べていこう、というよりは、出版社と作家の関係性を見直したかったということが、一番の理由です。当時は今よりも、はるかに出版社のほうが作家より圧倒的に立場が強かった。それまでは出版社を経由していなければ、商業出版はできなかったんだから当たり前です。ただそれでみんなの生活が回っているうちはよかったけど、業界は右肩下がり。お金は回らず、関係性だけが残っていた。自分でも出せるという前例を作ることで、出版社も関係性を見直さざるをえなくなるのではないかと考えました。
反響として、周囲のマンガ家はもちろん、小説家やイラストレーター、ライターなどいろいろな方たちに好意的に受け入れられたことは、嬉しかったですね。
――電子書籍があまり一般的でない頃から、電子に着手していらっしゃいましたが、その当時と電子書籍がだいぶ浸透してきた現在と比べてみて、考え方はどのように変わりましたか?
2013年から、漫画業界の売上が、電子書籍分を合わせるとプラスに転じました。これは18年ぶりのことで、とてもすばらしいことです。ただそのプラスは、出版社が得ている電子書籍の利益と同じくらいに、作家に還元されているかというと、そうでもない。電子書籍の印税率がだいぶ低いです。定価の15%、もしくは出版社に入った金額の25%というのは、Amazonなどから出版社が得ている数字と比較して、感覚としても実態としても低すぎるのではないかと思います。
かといって、セルフパブリッシングで大当たりする人が、増えているわけでもない。もう少しその手の人が増えると思っていたんですけどね。ここ1~2年は作家より、出版社の動きの方が面白いなと感じていて、注目しています。ただ紙媒体のマンガを転載するだけでなく、描き下ろしのWEBマンガが増えてきました。また新人発掘にしても、昔は個人ページか、「pixiv」くらいだったのが、最近は出版社が運営する新人発掘サイトが増えてきて、しかも面白い作品が出てきている。個人がセルフパブリッシングを出してヒットを当てるより、打率は高いんだと思います。
――なるほど。小沢さんの考える電子書籍のメリット・デメリットを教えてください。
「場所をとらない、いつでも買える」ことは、最大のメリットだと思います。それに尽きますね。課題は、シンプルにできるはずの流通が、ややこしくなりすぎていることです。出版社はもっとエンジニアを雇えばいいのにといつも思っています。さきほどの回答と一見、矛盾しているように思えますが、出版社はまだまだ電子書籍やネットに対して暗いです。できることとできないことなどのコストがまるでわかってない。無駄にお金を使ってる部分が多いように思います。一つの会社でいくつも「車輪の再発明」をしているケースも多々あります。
――電子で漫画を描くにあたって、気をつけていることがありましたら教えてください。
6年経った今でも、漫画家にとって「面白い漫画を描く」という基本は、紙だろうが電子だろうが、まったく変わりません。
電子書籍には、紙書籍と違って、いわゆるノドの部分がないので、かろうじてテクニカルな部分として、中央断ち切りのコマはできるだけ使わないように気をつけています。以前は、セリフの級数を18級以下にしないということも気をつけていましたが、最近は、端末の解像度が上がったので、気にしていません。
>次ページ「次の段階にはAmazonオリジナルコンテンツが来るんじゃないか」