» page top
ozawa_dot_300x300

マンガ家ユニット「うめ」の小沢高広氏が「Kindle Unlimited」から電子コミックの未来を紐解く!
2016年8月5日


今回は『スティーブズ』を連載中の、マンガ家ユニット「うめ」の小沢高広氏にメールインタビュー。2010年に「Amazon Kindleダイレクト・パブリッシング」で『青空ファインダーロック』をリリースし、日本人マンガ家として、いち早く電子コミックに取り組まれてきました。誰よりも長く電子コミックを身近に見てきた人なのではないでしょうか。これからの電子書籍の在り方とは、未来の電子コミックとは、切り込んでいきます。また、「うめ」は、小沢氏(シナリオ・演出)と妹尾朝子氏(作画・演出)の男女ユニット。2人は夫婦でもあります。プライベートや、オススメの本についてもお伺いしました。

 

51z1gb9npXL._SY346_steves_2

『スティーヴズ』1巻(小学館)、同巻第3話より

6年経った今でも、漫画家にとって「面白い漫画を描く」という基本は、紙だろうが電子だろうが、まったく変わりません

――小沢さんは、2010年、日本人マンガ家として初めて「Amazon Kindleダイレクト・パブリッシング」をされたことで話題になりました。いち早く電子でマンガを出版したきっかけは、何だったのでしょうか? また、その当時の周囲のマンガ家からの反応はいかがでしたか?

それだけで食べていこう、というよりは、出版社と作家の関係性を見直したかったということが、一番の理由です。当時は今よりも、はるかに出版社のほうが作家より圧倒的に立場が強かった。それまでは出版社を経由していなければ、商業出版はできなかったんだから当たり前です。ただそれでみんなの生活が回っているうちはよかったけど、業界は右肩下がり。お金は回らず、関係性だけが残っていた。自分でも出せるという前例を作ることで、出版社も関係性を見直さざるをえなくなるのではないかと考えました。
反響として、周囲のマンガ家はもちろん、小説家やイラストレーター、ライターなどいろいろな方たちに好意的に受け入れられたことは、嬉しかったですね。

――電子書籍があまり一般的でない頃から、電子に着手していらっしゃいましたが、その当時と電子書籍がだいぶ浸透してきた現在と比べてみて、考え方はどのように変わりましたか?

2013年から、漫画業界の売上が、電子書籍分を合わせるとプラスに転じました。これは18年ぶりのことで、とてもすばらしいことです。ただそのプラスは、出版社が得ている電子書籍の利益と同じくらいに、作家に還元されているかというと、そうでもない。電子書籍の印税率がだいぶ低いです。定価の15%、もしくは出版社に入った金額の25%というのは、Amazonなどから出版社が得ている数字と比較して、感覚としても実態としても低すぎるのではないかと思います。
かといって、セルフパブリッシングで大当たりする人が、増えているわけでもない。もう少しその手の人が増えると思っていたんですけどね。ここ1~2年は作家より、出版社の動きの方が面白いなと感じていて、注目しています。ただ紙媒体のマンガを転載するだけでなく、描き下ろしのWEBマンガが増えてきました。また新人発掘にしても、昔は個人ページか、「pixiv」くらいだったのが、最近は出版社が運営する新人発掘サイトが増えてきて、しかも面白い作品が出てきている。個人がセルフパブリッシングを出してヒットを当てるより、打率は高いんだと思います。

――なるほど。小沢さんの考える電子書籍のメリット・デメリットを教えてください。

「場所をとらない、いつでも買える」ことは、最大のメリットだと思います。それに尽きますね。課題は、シンプルにできるはずの流通が、ややこしくなりすぎていることです。出版社はもっとエンジニアを雇えばいいのにといつも思っています。さきほどの回答と一見、矛盾しているように思えますが、出版社はまだまだ電子書籍やネットに対して暗いです。できることとできないことなどのコストがまるでわかってない。無駄にお金を使ってる部分が多いように思います。一つの会社でいくつも「車輪の再発明」をしているケースも多々あります。

――電子で漫画を描くにあたって、気をつけていることがありましたら教えてください。

6年経った今でも、漫画家にとって「面白い漫画を描く」という基本は、紙だろうが電子だろうが、まったく変わりません。
電子書籍には、紙書籍と違って、いわゆるノドの部分がないので、かろうじてテクニカルな部分として、中央断ち切りのコマはできるだけ使わないように気をつけています。以前は、セリフの級数を18級以下にしないということも気をつけていましたが、最近は、端末の解像度が上がったので、気にしていません。

>次ページ「次の段階にはAmazonオリジナルコンテンツが来るんじゃないか」



過去記事はこちら!

「映画には人生を変える力がある」『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』前田哲監督インタビュー

20181130_155606
講談社ノンフィクション賞と大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』が、今月28日(金)に公開されます。本作は、筋ジストロフィー症を患っている主人公・鹿野靖明と鹿野さんを支えるボランティアの克明な記録とともに「生きる」とはど...(2018年12月26日) >もっとみる

本は日用品 『本屋の新井』の著者・新井見枝香さんの哲学

unnamed
 「新井さんがプッシュした本はヒットする!」という都市伝説(?)もあるほどのカリスマ書店員が三省堂書店にはいる。それが今回『本屋の新井』を出版した新井見枝香さんだ。 本を読む人が減り、書店も年々減り続ける状況のなか、それをもろともせず、独自のアイディアで本を売り、テレビやラジオなど...(2018年11月16日) >もっとみる

ラブコメ王・瀬尾公治先生が描く少年漫画編集部の熱い現場が舞台の『ヒットマン』

51W+hCWmhzL (1)
 『涼風』、『君のいる町』、『風夏』と3作連続アニメ化され、ラブコメ王ともいえる瀬尾公治先生。  今回は、最新作で新人編集者♂と新人マンガ家♀が少年漫画編集部を舞台に週刊20Pに命を懸ける情熱を描いた『ヒットマン』が10月17日に発売された。...(2018年10月29日) >もっとみる

どうして目がよくなると若返るの? 著者・日比野佐和子先生と、監修・林田康隆先生に聞いてみた

4
  関連記事一覧【立ち読み連載】日比野佐和子先生の新刊『目がよくなると 10歳若返る』 ←毎日17時更新!!//   10月に発行されたゴマブックスの新刊『目がよくなると、10歳若返る』。この本の著者である日比野佐和子先生は、『眼トレ』をはじめ累計55万部を超える著書のほか、アンチエイジング専門医としてテレ...(2018年10月25日) >もっとみる

直木賞受賞島本理生さん 『ファーストラヴ』というタイトルに込めた想い

IMG_4328(I)のコピー
今回は芥川賞に4回、直木賞に2回ノミネートされ、第159回直木賞が念願の受賞となった島本理生さんです。 受賞作の『ファーストラヴ』は、ある事件をきっかけに見えてきた家族間の闇に迫るミステリー風の作品となっている。 電子書籍ランキング.comでは、受賞した思いから作品への思いまでをお伺いしました。...(2018年09月28日) >もっとみる